クリスマス・ホリデイ

中国人の若い女たちがクルマの窓を開けて痰を吐いている。
マオリの女たちが、それを睨んでいる。
中国人の女のひとりが顔をあげるとマオリの女の子が指を立てた。

クリスマスは一年中でいちばん喧嘩が多いシーズンです。
家庭内暴力も25日にピークになる。
招待する親戚を選んでプレゼントを選んで、という神経を使う選択の積み重ねがそうさせるのでしょう。
みな神経を苛立たせて、刺々しくなる。

昼ご飯を食べに寄ったカイクーラのレストランで日本人のカップルが昼食を摂っておる。
カイクーラは「鯨の町」です。
鯨を「自分たちの友人」と感じるニュージーランド人のなかでも、とりわけ、カイクーラ人たちは鯨をほとんど兄弟か親類のように感じておる。
モニとわっしはテーブルについてしばらくしてから、ずっと、この日本人カップルを睨みつけている若い男の4人組に気が付いておった。
「おい、あいつら日本人だぜ」とゆっておる。
「どうして鯨殺しのやつらが、この町にいるのかな」
どうやら日本人のカップルは英語がわからないらしい。
ハネムーンでもあるのでしょう。
どんどん険悪になってゆく隣のテーブルの4人に気が付きもせずに、談笑しています。
だんだん声を上げて日本人を罵っていたかと思ったら、とうとうひとりが立ち上がってカップルのテーブルを手のひらで叩いて罵りはじめてしもうた。
あたりまえだがふたりの日本人は恐怖に怯えた表情です。

あにゃあ、なんとかゆわんと仕方がない、とわっしが考えだしたところで、モニのよく通る声が「メリー・クリスマス」とゆった。
モニが、見つめられると誰でも逃げ出したくなる怒ったときの怖い眼で4人組を見据えながら、もう一回「メリー・クリスマス」という。
それはとてもよい考えだと気が付いたので、わっしも一緒になって4人組に「メリー・クリスマス」といいます。
反対側に座っていた中年夫婦の奥さんも大きい声で4人組に向かって「メリー・クリスマス」とゆった。
「でも鯨たちは…」となおもいいかけるひとりの腕をつかんで4人は連れだって出ていった。

オークランドに帰ってきました。
わっしは、この出来が悪くて汚ならしいマヌケな建物ばかりの街に6週間ほどいるであろう。
わっしは、いろいろな人種といろいろな文化集団が混ざり合って住んでいて、お互いに喧嘩ばかりしているこの街が好きだからです。
モニもわしも珍しく早く起きたのでタウポから大雨のなかをクルマを飛ばして帰ってきた。
ハイウェイワンを通らずにワイカトのオールドタウポロードを通って帰りました。
驟雨の中でも歴然と美しいワイカトの農場にモニが目を瞠っておる。

(ハミルトンでサブウエイサンドイッチの朝ご飯を食べた)
(駐車場のクルマに戻ると酔ったマオリのおっさんがボンネットにもたれかかっていて、「おれに近寄るな」という。「でも、これわしのくるまなんだよ」と言うと、哲学者のように、うなずきながら立ち去って行った)

午後にならないうちにオークランド市内に着いた。
「高級」レストランやパブがなんの脈絡もなく立ち並んで「繁栄する廃墟」のような大通りをのぼって道を折れてモニとわしの家のある通りにはいると、突然静かになります。並木道の両側で静まりかえる城塞のような家々。
まるで世の中の醜さという醜さを頑なに拒絶しているかのようである。
顔見知りの近所のおっさんがヘッジを刈っていたので、わっしはクルマを寄せて挨拶する。
「やあ、ガメ。元気かね。
きみがいないあいだに月が直径16センチも大きくなったのをきみは知っておったか?
氷山たちがわれわれの国に向かってやってくるそうだ。
街には中国人が増えた。
日本人たちが今年も鯨を殺しにわれわれの海にやってきた。
今年もわれわれの庭先を鯨の血で染めに来た。
信じられるかね、きみ?
クリスマスを血で塗りにくるんだぜ、あいつら。
どうか彼等にすら神様の加護がありますように!

タウポはどうでしたか。
あの繁盛しているインド料理屋にきみも行ったのか。
相変わらずアメリカ人たちが来て礼儀しらずぶりを発揮しているのだろうか」

スーパーマーケットに行ってティッシュペーパーや卵やワイン、バターやチーズを買った。
ベーカリーに寄って出来たてのパンも買いました。

家の仕度がすっかり終わってから、
昨日の雨でびっしょり濡れた芝生の上でゆっくりした音楽にあわせてモニとふたりで腕をとりあって、素足で踊りました。
隣家の娘ガキふたりが二階のテラスの桟に肘をついて眺めくさっておる。
モニとわっしは踊りながら交代で小さく手を振ります。
手を振り返す、かわゆいチビ娘ガキたち。
1月の初めまで続くニュージーランドの長い夏休みの始まりです。

画像は、わしの好きな「マウント・ルアペフ」。
いつ見てもかっこええだ。

28/December/2009

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